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日本最高裁判所判例:平成26年(受)第865号
添加时间:2016-08-03 17:09:34 点击次数:127 次 整理发布:管理员
平成26年(受)第865号 清算金請求事件平成28年7月8日 第二小法廷判決
 
                                                                主     文
  • 原判決を次のとおり変更する。
         第1審判決を次のとおり変更する。
  1. 被上告人は,上告人に対し,4億3167万5
     585円及びうち4億3150万8744円に対する平成20年10月2日から支払済みの前日まで2%を365で除した割合を日利とする各日複利の割合による金員を支払え。
  1. 上告人のその余の請求を棄却する。
  • 訴訟の総費用は,これを5分し,その3を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。
 
                                                               理    
 
上告代理人田中信隆,同福森亮二の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
  • 本件は,再生手続開始の決定を受けた上告人が,被上告人との間で基本契約を締結して行っていた通貨オプション取引等が平成20年9月15日に終了したとして,上記基本契約に基づき,清算金11億0811万1192円及び約定遅延損害金の支払を求める事案である。被上告人は,上記再生手続開始の決定後,自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が上告人に対して有する債権(再生債権)を自働債権とし,上告人が被上告人に対して有する上記清算金の支払請求権を受働債権として上記基本契約に基づく相殺をしたことにより,上記清算金の支払請求権は消滅したなどと主張している。
  • 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
  1. 証券会社である上告人は,米国法人A(以下「A」という。)の子会社であった。また,信託銀行である被上告人及び証券会社であるB株式会社(以下
「B」という。)は,いずれもC株式会社の完全子会社である。
  1. 上告人は,平成19年2月1日,被上告人との間で,基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結し,通貨オプション取引及び通貨スワップ取引(以下,併せて「本件取引」という。)を行っていた。
  2. 本件基本契約には,要旨次のような定めがある。
  • 一方の当事者の信用保証提供者が,破産決定その他救済を求める手続の開始を申し立てた場合には,当該当事者につき,期限の利益を喪失する事由(以下「期限の利益喪失事由」という。)に該当することとなるものとし,当事者間に存在する全ての取引は,期限の利益喪失事由の発生に伴い行われる関連手続の開始又は申請の直前の時点で終了するものとする(以下,この定めにより当事者間に存在する全ての取引が終了することを「期限前終了」といい,その終了の日を「期限前終了日」という。)。
  • 期限の利益喪失事由が生じ,一方の当事者(甲)について期限前終了をしたときは,他方の当事者(乙)は,乙及びその関係会社(直接的又は間接的に,乙から支配(議決権の過半数を所有することをいう。以下同じ。)を受け,乙を支配し,又は乙と共通の支配下にある法的主体をいう。以下同じ。)が甲に対して有する債権と,甲が乙及びその関係会社に対して有する債権とを相殺することができる
(以下「本件相殺条項」という。)。本件相殺条項は,甲が再生債務者となった場合であっても,乙が,自らの関係会社が甲に対して有する債権を自働債権とし,甲の乙に対する債権を受働債権として相殺することができるというものである。
  1. 本件基本契約における上告人の信用保証提供者であるAは,平成20年9月15日,米国連邦倒産法第11章の適用申請を行い,本件取引は,前記(3)アの定めにより期限前終了をした。上告人は,被上告人に対し,本件基本契約に基づき,清算金4億3150万8744円並びに期限前終了日である同日から同年10月1日までの確定約定遅延損害金16万6841円及び上記清算金に対する同月2日から支払済みの前日まで2%を365で除した割合を日利とする各日複利の割合による約定遅延損害金の支払を求める債権(以下「本件清算金債権」という。)を取得した。
  2. Bは,上告人との間で,平成13年11月26日に本件基本契約と同様の基本契約を締結し,取引を行っていたが,同取引が平成20年9月15日に終了したため,上告人に対し,同基本契約に基づき,同取引の清算金17億1168万6
829円の支払を求める債権(以下「B清算金債権」という。)を取得した。
  1. 上告人は,平成20年9月19日,再生手続開始の決定を受けた。
 被上告人は,再生債権の届出期間内である同年10月2日,上告人に対し,本件相殺条項に基づき,上告人が被上告人に対して有する本件清算金債権と,被上告人の関係会社であるBが上告人に対して有するB清算金債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした(以下「本件相殺」という。)。なお,Bは,同日,上告人に対し,本件相殺に同意している旨を通知した。
  • 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,本件清算金債権は本件相殺によりその全額が消滅したと認め,原告の請求を棄却すべきものとした。
 本件相殺は,2当事者が互いに債務を負担する場合における相殺ではないが,再生手続開始の時点において再生債権者が再生債務者に対して債務を負担しているときと同様の相殺の合理的期待が存在すると認められ,かつ,相殺が再生債権者間の公平,平等を害しない場合には,民事再生法において制限される相殺には当たらないと解するのが相当である。そして,本件相殺条項の合意時において,上告人と被上告人は,関係会社を含めたグループ企業同士で総体的にリスク管理をすることを企図しており,本件相殺条項のような3者間の相殺を定めた契約は,分社化が進んだ金融機関のデリバティブ取引における慣行といえる程度に広く用いられていたと推認されること等からすれば,本件相殺は,再生手続開始の時点で再生債権者が再生債務者に対して債務を負担しているときと同様の相殺の合理的期待が存在するものであると認められ,かつ,再生債権者間の公平,平等を害するものであるとまではいえない。そうすると,本件相殺は,同法93条の2第1項によって相殺が禁止される場合に当たらず,同法92条により許容されるものと解するのが相当である。
  • しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 相殺は,互いに同種の債権を有する当事者間において,相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し,もって両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする制度であって,相殺権を行使する債権者の立場からすれば,債務者の資力が不十分な場合においても,自己の債権について確実かつ十分な返済を受けたと同様の利益を得ることができる点において,受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものである。上記のような相殺の担保的機能に対する再生債権者の期待を保護することは,通常,再生債権についての再生債権者間の公平,平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨に反するものではないことから,民事再生法92条は,原則として,再生手続開始時において再生債務者に対して債務を負担する再生債権者による相殺を認め,再生債権者が再生計画の定めるところによらずに一般の再生債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし,この点において,相殺権を別除権と同様に取り扱うこととしたものと解される(最高裁昭和39年(オ)第155号同45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号587頁,最高裁平成21年(受)第1567号同24年5月28日第二小法廷判決・民集66巻7号3123頁参照)。
 このように,民事再生法92条は,再生債権者が再生計画の定めるところによらずに相殺をすることができる場合を定めているところ,同条1項は「再生債務者に対して債務を負担する」ことを要件とし,民法505条1項本文に規定する2人が互いに債務を負担するとの相殺の要件を,再生債権者がする相殺においても採用しているものと解される。そして,再生債務者に対して債務を負担する者が他人の有する再生債権をもって相殺することができるものとすることは,互いに債務を負担する関係にない者の間における相殺を許すものにほかならず,民事再生法92条1項の上記文言に反し,再生債権者間の公平,平等な扱いという上記の基本原則を没却するものというべきであり,相当ではない。このことは,完全親会社を同じくする複数の株式会社がそれぞれ再生債務者に対して債権を有し,又は債務を負担するときには,これらの当事者間において当該債権及び債務をもって相殺することができる旨の合意があらかじめされていた場合であっても,異なるものではない。
 したがって,再生債務者に対して債務を負担する者が,当該債務に係る債権を受働債権とし,自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が有する再生債権を自働債権としてする相殺は,これをすることができる旨の合意があらかじめされていた場合であっても,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当しないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると,本件相殺は,再生債務者である上告人に対して本件清算金債権に係る債務を負担する被上告人が,上記債権を受働債権とし,自らと完全親会社を同じくするBが有する再生債権であるB清算金債権を自働債権として相殺するものであるから,民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当しないものというべきである。
 5 以上によれば,本件相殺が民事再生法92条により許容されるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があり,論旨は理由がある。そして,以上に説示したところによれば,上告人の請求は,被上告人に対し,清算金4億3150万8744円並びに期限前終了日である平成20年9月15日から同年10月1日までの確定約定遅延損害金16万6841円及び上記清算金に対する同月2日から支払済みの前日まで2%を365で除した割合を日利とする各日複利の割合による約定遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余は棄却すべきであり,原判決を主文第1項のとおり変更することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝美の補足意見がある。
 裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見との関係で,次のとおり私見を付加しておきたい。
 1 本件相殺条項による相殺的処理と民事再生手続における効力
  1. 本件相殺条項は,被上告人の「関係会社」の同意を停止条件として,上告人の被上告人に対する債権と関係会社(本件ではBがこれに当たる。)の上告人に対する債権とを,相殺的処理により消滅させること(以下,これを「本件相殺的処理」という。)を認める旨を当事者間で合意するものであるが,弁済や相殺などのいわゆる法定の債務消滅行為とは異なる面があるため,倒産手続の一つである再生手続においても本件相殺的処理の効力をそのまま認めることができるかが問題となる。
  2. 再生手続においては,優先権を有する場合以外は,再生債権の処理について,再生債権者間の公平,平等な扱いを基本原則としており(以下,この原則を
「債権者平等原則」という。),民事再生法(以下「法」という。)85条が再生計画の定めるところによらない再生債権消滅行為の原則的禁止を定めているのもその現れである。法は,その例外として92条ないし93条の2等において「相殺」に関して定めているが,このような例外は,相殺の性質上,それを認めることが他の再生債権との関係でも債権者平等原則の趣旨に背馳しないためである。
  1. ところで,本件相殺的処理は,上告人の全債権者のための引き当て財産となるべき債権を当事者間の合意である本件相殺条項により消滅させるものである。そして,これは,上告人に期限の利益喪失事由が発生し,その後に関係会社の同意がされることにより,期限の利益喪失事由が発生した時点に遡って本件相殺的処理を行うというものである。内田貴被上告人訴訟代理人(東京大学名誉教授)による「上告受理申立理由書に対する意見書(2)」のとおり,このような当事者間ないし関係会社を巻き込んだ3当事者間における合意による本件相殺的処理は,再生手続開始前に債権債務の差引清算が完結しているものであると主張して,そもそも再生手続の規制の対象にはならず,したがって法92条の相殺該当性を問題にするまでもなく,有効性を肯定できるとする見解もあり得よう。
 このような3者間の合意による相殺処理は,3者間の相殺について,債権債務に強い牽連性がある場合等,一定の条件の下において認められるとする見解や立法例も見られるところであり(上記「上告受理申立理由書に対する意見書(2)」),関係当事者間における債権債務の差引清算の合意の効力としては確かにあり得るところである。問題は,再生債務者に破綻事由が発生しその財産が全債権者の引き当てになる事態が生じ,再生手続開始前であっても申立時(なお,本件取引はその時点において期限前終了をしていた。)には法85条とほぼ同趣旨の弁済禁止等の保全処分が発令される等のいわゆる倒産状態になり,債務者にとって,自由な財産処分が許されなくなった場面であっても,そのような合意の効力ないし合意による処理が認められるか否かである。
  1. この場面では,既に再生手続開始後と同じ法的規制を受ける状態が始まっており,法の規制が契約自由の原則に優先して働くことになるため,本件相殺的処理の有効性は,結局,それが債権者平等原則の例外として法が許容しているといえる場合に限られるといわざるを得ない。そして,具体的には,本件相殺的処理が許容されるのは,法92条1項の規定する相殺に該当する場合であるから,民法50
5条の定める相殺に当たると評価できるものでなければならない。そして,本件においては,法定相殺とされるための要件のうち,特に,同一当事者間で互いに債権債務が存在していること(以下,この要件を「相互性」という。)が満たされているかどうかが問題となるのである。
 2 本件相殺的処理における「相互性」の有無
  1. 相殺について相互性が要求されるのは,相互に債権債務を有する当事者は,相手方の資力に関係なく信頼し合うものであるから,一方の当事者の資力が悪化しても,この信頼を裏切って相殺を禁ずることは,かえって不公平となるので,対当額で債権債務を消滅させる処理が公平に適するという考え方が制度の基礎にあり(我妻榮「新訂債権総論」317頁等参照),相殺についての担保的機能や相殺による債権回収への合理的期待が存在するからであろう。
 本件において,被上告人は,上告人に対して,その期限の利益喪失事由(経営破綻)発生時点で債権を有していたわけではなく,本件相殺条項によって関係会社の債権を自働債権として相殺的処理ができるとされていたにすぎず,形式的には相互性の要件を満たしているとはいい難い。
  1. 被上告人は,この点について,以下のような趣旨の主張をしている。
    • 本件相殺条項は,関係会社(B)が同意することを停止条件として,関係会社が「期限の利益喪失当事者」(以下「利益喪失者」という。本件では上告人である。)に対して有する債権の債権者を「非期限の利益喪失当事者」(以下「利益非喪失者」という。本件では被上告人である。)に交替させることを内容とする
「債権者の交替を定めた更改契約又はそれに類する非典型的契約」であり,関係会社の同意により債権者の交替が行われ,利益喪失者との間での相互性の要件を満たすことになり,その結果,本件相殺的処理は,法92条により許容される。
  • また,関係会社(B)の同意は,再生手続開始の決定後ではあるが,その時点で再生債権の譲渡がされたととらえるべきではなく,上記同意により本件相殺的処理を行う権限を利益非喪失者に認めたのであり,それにより再生手続開始前に遡って相殺処理がされたことになるのであるから,相殺禁止を定める法93条の2第1項1号等にも当たらない。
  1. しかしながら,上記(2)①につき,本件相殺条項が,債権者の交替による更改等を定めたものといえるかは,慎重に検討する必要があるところ,債権の帰属,発生及び当事者の交替は,明確な取決めがなければならないのであって,本件相殺条項の文言によってもこれらが明確とはいえず,また,当事者の意思等にも沿わない面があり,このような見方は,やはり無理があるといわざるを得ない。
 また,上記(2)②につき,関係会社の同意について,利益非喪失者に本件相殺的処理を行う権限を認めたものであるという説明をしても,結局,相互性を満たすために,その時点で自己の債権を被上告人に譲渡したのと同じ状態を生じさせるものであって,法93条の2第1項1号等の規制を免れることはできない。
 3 本件相殺条項の意味と「関係会社」の範囲等
  1. 本件基本契約は,1992年版のISDAマスター契約(ISDA(国際スワップ・デリバティブズ協会)が作成したデリバティブ取引の標準契約書)に依拠したものであり,本件相殺条項は,ISDAマスター契約にスケジュールと呼ばれる別紙として添付され,本件基本契約を構成している。そして,一般に,デリバティブ取引は,原審認定のとおり,取引当事者間の債権債務が日々刻々変化する上,取引終了までは債権債務の状況がどのようになるかが判然としないものであり,取引当事者において期限前終了事由(経営破綻)が生じる場合のリスク管理が重要となり,そのため,本件のように,債権債務の相殺的処理によるリスクの低減ないし回避が方策として検討されることになる。
  2. ところで,本件相殺条項の当事者の一方は,世界的な金融グループであったDグループに属する証券会社であり,他方は,同じく世界的な投資銀行・証券持株会社であるC株式会社の100%子会社であって,いずれも,持株会社を頂点とする金融グループの構成員である。このような企業グループでは,経営的な観点から,頂点となる持株会社を設立し,その分社化として,本件当事者のようなグループに属する企業がいわば姉妹会社として,様々な分野で活動している。このような企業グループは,グループを構成する個々の企業の単なる寄せ集めではなく,多様な分野で各企業が各自の経済活動を行って相互に協力,連携をしながら,グループ全体をいわば一つの複合的,有機的な企業体として動かしていくものであり,分社化した各企業において生じたリスクも,グループ全体として,リスク管理を行うことを考えることはあり得る方策であろう。本件相殺条項も,そのような観点から,
Eグループ内で,直接又は間接に共通の支配下にある企業を「関係会社」として位置付けて,本件相殺的処理により取引契約の当事者でない関係会社の同意を条件とした上,その利益喪失者に対して有していた清算金債権を自働債権とし,利益喪失者の利益非喪失者に対する清算金債権を受働債権として,本件相殺的処理をして対当額において消滅させることにより,企業グループ全体のリスク管理を図ったものとみるべきである。このような処理は,分社化が進んだ金融機関におけるデリバティブ取引業界において一定程度採用されている状況にあるものと推察されるところであり,少なくとも契約当事者間あるいはそれを構成員とする企業グループ間においては,経済的合理性,相当性を有するものであり,相殺的処理についての担保的機能や相殺的処理による債権回収への合理的期待が,当初から存在しているといえよう。
 このようなデリバティブ取引の性質,当事者及びそれらを支配下に置く企業グループにおけるリスク管理の観点等を踏まえると,本件相殺的処理について,利益非喪失者と関係会社とが一体的なものかどうかの評価に関わる両者間の組織上の関連性(資本や人事等の関連性)や営業活動上の関連性(営業方針,情報,経営戦略等の関連性)が問われることとなり,その内容いかんでは,法定相殺の基本要件である相互性が実質的に認められると解する余地が生じよう。
  1. しかしながら,本件相殺条項は,上告人及び被上告人が契約の当事者となっている本件基本契約を構成するものであり,そこでいう「関係会社」は,契約当事者が属する企業グループ内の共通の支配下にありグループに属する子会社ではあるが,本件基本契約外の第三者である。また,関係会社とは具体的にどの法主体なのか,が本件相殺条項等において当初から特定されているわけではなく,ましてや,関係会社と上告人との間の債権の発生が,本件取引と同様のデリバティブ取引によるものであるといった限定もない。さらに,その「関係会社の同意」も,本件相殺条項を含む本件基本契約締結時において,上告人の経営破綻の際には本件相殺的処理に同意することが当然に予定されている関係にあるともいえない。なぜなら,経営破綻状態になった時点で,被上告人から照会された関係会社は,そもそも同意するかどうか,被上告人とのどのような条件(本件相殺的処理により被上告人は大きな利益を得るので,関係会社は自己の債権を自働債権として使用されることの対価を一定程度要求できる地位にある。)の下で同意するのか等は,その時点における関係会社の経営判断によることになるからである。
 そうすると,前記のとおり,「相殺」において相互性を要求する趣旨は,相互に債権債務を有する当事者は,相手方の資力に関係なく信頼し合って取引を行うものであることから,一方当事者の資力が悪化したときには,対当額で債権債務を消滅させるのが公平に合致する,というものであるところ,本件相殺条項により第三者的立場の関係会社を巻き込んだ相殺的処理は,このような当事者間の信頼を基礎とするものではないといわざるを得ず,その点で相互性は認め難いといえよう。
  1. もっとも,本件相殺条項において,「関係会社」が,単に,共通の支配下にある同じ企業グループの法主体というだけでなく,被上告人と関係会社との間に密接な組織的関係ないし協力的な営業実態等が存在する姉妹会社であるような場合には,更に検討を要しよう。
 例えば,①関係会社が,上告人との間で被上告人と同種のデリバティブ取引を行っているもので,被上告人との間に,姉妹会社としての当該取引上の協力,連携関係があり,被上告人と上告人との取引に関し一定の情報を共有しており,実質的に一つの取引関係から債権債務が生じているような実態があり,その意味で文字どおり姉妹会社であって,かつ,契約締結時ないしその後然るべき時期には会社名が特定されるような場合,あるいは,②本件相殺条項における同意との関係で,被上告人が本件相殺的処理を必要とするような一定の状況が生じた際には,予め定められた条件の下で,関係会社として当然に「同意」をする義務を負うことが別途,被上告人と関係会社の両当事者間で合意されており,そのことが上告人等にも周知されているような場合である。
 本件基本契約及び本件相殺条項において,「関係会社」がこのように限定されて特定され,しかも,そのような実態があるような場合には,姉妹会社間での法人格否認が可能なときは勿論,それまではいかないときであっても,被上告人と関係会社との組織ないし営業上の一体性を認め,当該デリバティブ取引における上告人に対する共通の当事者とみることが不可能ではなく,相互性の要件を満たしていると解される余地がある。
 本件において被上告人とBとの関係や上告人とのデリバティブ取引の実態が上記のように評価し得るものである可能性はあるが(もっとも,本件ではその主張立証が十分とはいえない。),本件相殺条項自体においては,このような限定はされておらず,関係会社であるBは,本件取引においては本来第三者としかみることはできないのであるから,上告人に対して清算金債権を有していたとしても,上告人との関係で被上告人と一体性を有しているとして相互性の要件を満たしているとまで評価することはできない。
  1. この点については,「関係会社」の規定を上記のようなものとして予め限定的に捉えて縮小解釈し,本件の実態からして「相互性」を肯定してよいとする見解があろう。しかし,法令の合憲限定解釈の手法とは異なり,契約条項の解釈は,まず,当事者の意思がどのようなものであったのかを,文理と当事者の合理的意思から探る作業であって,それによれば,一般的に企業グループ全体のリスク管理を図るという趣旨にほかならず,被上告人とBとの関係のように極めて緊密な関係にある場合に限ってのリスク管理とみることはできない。次に,本件相殺条項については,その性質上,このような縮小解釈は,個々の事案ごとの判断となるため,
「関係会社」の範囲が不明確となって予測可能性を害することになり,その結果,恣意的な,グループ単位の相殺的処理を拡大させ,リスク管理を図ることの容易な巨大な企業グループによる市場の寡占化に繋がる事態を生じさせかねず,また,それが債権者平等原則との関係で許容される程度を超えるおそれもある。そうすると,「関係会社」としか規定していない文理の下では,このような縮小解釈により関係会社を巻き込んだ本件相殺的処理が例外的処理を定めた法92条の相殺に当たるとして処理することは,司法的解釈の範囲を超えるものと考える。
 さらに,規定の縮小解釈ではなく,本件において,Bを関係会社として本件相殺条項を適用する限りにおいて,被上告人との一体性が認められるというように,いわば具体的事案へ適用する限りにおいて相互性を満たすとする解釈手法についても,契約当初から当事者間において関係会社であるBとの取引をも念頭に置いて,これらとの間の債権債務の相殺的処理に合理的期待を有していた関係にあったとはいえず(本件相殺条項の解釈としては,無理である。),やはり採り難いところである。
  1. 以上によれば,「関係会社」の範囲を限定し,本件相殺的処理を相殺と同視していく方向での解釈による対処,すなわち法92条の(類推)適用の手法の採用はできないことになろう。
 なお,今後の経済界,金融界におけるデリバティブ取引が大きく進展し,企業グループを全体としてリスク管理を図ることが強く要請される状況となり,企業グループ以外の小規模業者も含めて当該業界全体としても,本件相殺的処理ないしそれに類するより広範な相殺的処理のようなリスク管理の必要性・合理性を承認してよいとする共通の認識が広く醸成されてくるような状況が生じてきた場合には,「関係会社」をより限定的に規定した契約書を作成することによって法92条の該当性を肯定することや,あるいは,立法によって,法92条等が許容する相殺とは別個の債権者平等原則の例外となる債権債務の差引清算の措置を採用すること等が検討課題となろう。その際は,その是非,すなわち,上記のような状況が本当に生じているとして処理してよいか,また,立法対応としても,倒産法制における債権者平等原則との関係から,その例外を認めることになる所要の要件等をどのようなものにするのか等について慎重な検討が求められることとなろう。

(裁判長裁判官 小貫芳信 裁判官 千葉勝美 裁判官 鬼丸かおる 裁判官  山本庸幸)